変わりいく推しについていけなくなった話
今の推しを応援すると決めてから気がつけば6年ほどの月日が経っていた。
それだけ経つと、推しも変わっていくし、自分も変わっていく。
…推しを応援する気持ちも、変わっていってしまう。
今、心が変わっていってしまいそうなこの気持ちを整理するために、ここに書き記していこうと思う。
思い出しながら書くから、長くなると思うが、全ては自分のためなので、うざいな、と思ったらそっと閉じてほしい。
◆
もともと私は若手舞台俳優オタクだった。
2.5次元ブームの火付け役といっても過言ではない、ミュージカルテニスの王子様、通称テニミュ。
私はテニミュの1stシーズン、2ndシーズンにひたすら通い続けた。
毎日劇場に通い、日替わりシーンを楽しみ、客降りに沸いた。
当時の推しが出るとなればどんな虚無舞台でも通ったし、推しの事務所の舞台やイベントは全通した。
毎週手紙を出し、プレゼントを贈り、推しがブログでプレゼントを使ってくれていることを確認したときは泣いて喜んだ。
そしてその2ndシーズンが終わったとき、ふと、無になってしまった。
どんな時もテニミュのことを考えていた。
本公演はほとんど通っていたし、ドリライ(ライブ公演)やTSC(テニミュサポーターズクラブ。ファンクラブのこと)のイベントは全通した。
半ば通うことへの義務感もあったし、しかしそれは苦ではなく、大楽まで駆け抜けた時の喜びもあった。
だからこそ、2nd終了と共に、自分の中でもやりきった、という思いが大きかったんだと思う。
私の中で、他の舞台はあくまで「テニミュに出てた俳優が、それ以外の場所でも頑張っているところ」「テニミュ以外での姿がみられるところ」でしかなかったのかもしれない。
もちろん、他の舞台でとてもハマってのめりこんだものもあったが、心の根底にあるのはテニミュだった。
作品が好きで観に行っていたはずが、推しを摂取するために舞台に通うようになった頃、疲れを感じ始めた。
と、同時に、推している俳優が、2.5の世界から離れて別のフィールドに立つようになった。
同世代の仲間たちと、舞台の上で、汗をかいて涙を流して、笑顔で歌い踊る推しが好きだったんだなぁ。
私が好きな推しの姿から、推し自身が離れていく。
それに気付いた時が、私が若手俳優オタクから卒業した瞬間だった。
◆
2.5次元舞台をまだ追いかけている全盛期の最中に出会ったのが「うたの☆プリンスさまっ♪」通称うたプリだ。
作品を知ったきっかけは、とあるニコ生。
若手舞台俳優のニコ生で「まるでうたプリみたい!」というようなコメントが流れ、「確かに!」と賛同するコメントが多くついた。
当時アニメをあまり見ていなかった私は、話題についていくために、それはなんだ?と調べた。
うたプリの原作は乙女ゲーだが、ちょうどその時はアニメ1期を放送していた。
「なんとなく話題だから。」
そんな理由でアニメ1期を全て見た私は、なんとなくうたプリの音ゲーも買った。
なんとなく、「乙女ゲーまで買うほどじゃないけど、まぁ音ゲーなら楽しそうだからいいかな」なんて、そんな気持ちだった。
実際、もともと音ゲー好きの私は見事にはまった。当時の推しは来栖翔だった。
2年後。
まだまだ2.5舞台のオタクを続けている時に、うたプリのアニメ2期がはじまった。
まわりのフォロワーで見てる人も多かったから、話題の作品だし、という感じで私も1話から視聴した。
アニメ2期から出てきた存在が、先輩組QUARTET NIGHT
原作ゲームをプレイしていなかった私は、2期のアニメで初めて彼らを認識した。
1話を見た当初はカルナイに関しての印象は薄かったように思う。なんかあたらしい知らない子たちでてきたな、それくらいだった。
そんな中、彼が気になると思ったのは、ツイッター上でのフォロワー同士の会話だった。
「藍ちゃんってお風呂とかどうしてるんだろ」
「生活防水くらいならついてるらしいよ」
まだアニメ2期の3話くらいのタイミングだったと思う。
今でこそ、コナンが工藤新一である並みの常識事項になっている「美風藍の正体はロボット」という情報だが、その当時はそうではなかった。
原作ゲームをやっていないと、知り得ないことだった。
(完全に余談で蛇足であるが、原作ゲームではソングロボである美風藍を、アイドルロボという設定にしたアニメうたプリを私は今でも許せない。美風藍は、歌を歌うために生まれた存在であり、心を知るため、アイドルという道を選んだはず。それをもとからアイドルになるために生まれたアイドルロボと変えたアニメ。美風藍を馬鹿のように自ら雨に野ざらしにしてロボバレさせたアニメ。くだらない理由でカルナイに喧嘩をさせてから美談にもっていき絆だなんだと仲良しこよしのグループにしたストーリー性のないアニメ。そう思いつつも声優の歌とアイドルの姿を摂取するために追いかけ続ける自分。全てが許せない)
今でも、あのフォロワーたちの会話は、アリかナシかでいったらナシだな、と思う。
今でも、彼女たちの会話ではなく、自分で作品を通してその真実を知って驚きたかったという思いはある。
が、実際問題、私はそれで美風藍という存在に興味を持った。
「え?この子、人間じゃないの??」
これ以上のネタバレ踏む前に、自分の目で確かめたい。
そう思った私は、ゲームを買って、のめり込むようにプレイした。
そして、息をするように美風藍にハマっていったのだった。
その時はまだ、ただ「美風藍」のファンであった。
中の人の名前までは知らなかったし、その中の人が、昔好きだった俳優目当てに観に行った某舞台で女装をしていた俳優の1人であったことも全く知らなかった。
◆
プリライ3rdのチケットが取れた。
ステージサイドの解放席だった。
諸々の先行が終わった後のラストチャンスで掴んだこのチケットで、私は新たな推しに出会うことになった。
美風藍のファンとして行ったプリライで、初めてその「生歌」を聴いた。
こんなにも、美しい歌声を、生で聴かせてくれる人間がいるのか。
「蒼井翔太」という存在を認識した瞬間だった。
◆
それから1年は、テニミュのオタクをしつつ、合間でうたプリもそれなりの熱量で追いつつ、という関係だった。
そしてテニミュ2ndシーズンが終わった頃には、ただのうたプリクラスタになっていた。
テニミュでは本公演のほとんどに通い、イベやドリライ全通、グッズは全買い。
そんなことを続けていたオタクは、愛の手加減方法を知らなかった。
のめりこんだらとことん。
美風藍のグッズが出ると聞けば全て予約し全て購入したし、トレーディングが出ると聞けば箱で予約した。
なにせテニミュにかけていた金が浮いたのだ。
気が付けば家中うたプリグッズで溢れていた。
それでも、蒼井翔太のオタクにはならないと決めていた。好きなのはあくまで美風藍であって、中の人ではない。
私が愛を捧げるのは(当時の若手俳優の)推しが最後。これ以上に愛を捧げる人は後にも先にもいない。
今になって思えば、どの口が言えたんだ、という台詞である。
◆
当時、私は自分でルールを決めていた。
「美風藍としての蒼井翔太には金を出すが、蒼井翔太個人には金を出さない」
作品より推しが好きになり、推しの現場に行くことが義務になって疲れて辞めてしまった舞台俳優オタクの時の二の舞は踏むまい、と思っていた。
しかし限界はすぐに来た。
なにせ、「美風藍としての蒼井翔太」の供給がそもそも少ない。
次第に蒼井翔太が出ている他作品に手を出し、蒼井翔太個人のイベントに行くようになった。
気がつけば、蒼井翔太が本命の推しとなっていた。
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蒼井翔太に捧げた数年間はとても楽しかった。
アニメ出演や、新曲、舞台にテレビ。
推しが新しい場所で活躍する度に「えぃーい!」(いぇーいの誤字。彼は誤字がとても多く、それをネタにしていた)と喜んだ。
決して演技が上手いわけではなく、トークも上手いわけではない推し。
でも、私が最初に惚れた歌唱力は衰えることを知らず、進化していくダンス、ビジュアル。
彼がキャラの姿を纏ってステージに立つ度に、そのキャラも推しのこともますます好きになった。
彼が蒼井翔太としてステージに立つ度に、推しの世界に惚れていった。
何より、彼がファンを思って、ファンの望む蒼井翔太の姿を続けてくれるのが、心から嬉しかった。
それでも、少しずつ、違和感や、心の距離を感じることは、数年前からあったように思う。
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推しがいる人間なら誰もがわかってくれると思っているのだが、推しの誕生日は、誰もが祝いたいと思う。
以前はFCイベントを誕生日にしてくれていた推しだが、今年も去年も、CDのリリイベを誕生日イベントと冠して行った。
推しの誕生日を祝いたいオタクは積んだ。
2年連続外れた友人は、蒼井から離れてしまった。
推しと、クリスマスを過ごしたい。
推しも、みんなとクリスマスを過ごしたいと、いつぞや言ってくれていた。
しかしそのクリスマスもリリイベであることが多い。
私も積んだが外れてしまった。
古巣テニミュの3rdシーズンのクリスマス公演に誘われて観に行ったが、ああ、懐かしいな、と懐古厨になって虚しさを重ねただけだった。
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推しの曲には「カラー」がある。
ペンライトの色だ。
リリイベやラジオなどで、この曲はこの色かな、と言ってくれていて、その色に染めるために、オタクはライブの時には率先してその色で会場を染めた。
推しと一緒に、推しのライブを作っている楽しみ、喜びを見出していた。
しかし、前回のライブツアーの時に推しが言ったのだ。「ペンライトの色はなんでもいい」と。
確かに、ペンラの色で学級会が度々起こっていたのは事実だ。
しかし、今まで、この曲にはこういうストーリーや思いがあるからこの色なんだ、と、作り上げてきたことまでも、推しに否定された気がしてしまった。
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一昨年の冬に、蒼井の所属する事務所と、その兄弟のような関係にある、上松さんの事務所の合同イベントが行われた。
そこで、上松さん主導の謎プロジェクト、ゴーストコンサート、略してゴーコンという作品が発表された。
上松さん自身も、このコンテンツがどういった展開になっていくのかがわからない。
わかっていることは、出演者に蒼井翔太がいて、歌うこと。それだけ。
事務所のイベントの物販で、キャラソンが発売されることになった。
そのキャラソンには、上松さんの顔写真が入った謎のシリアルコードつきチケットが封入されるという。
このシリアルコードがどのようなものになるかはわからない。何に使えるのかも決まっていない。ただ、いずれ何かに使えるからとっておいてね、というものだった。
蒼井の女は、そのチケットがいずれ推しの何かに使えると信じて何枚も買い求めた。
「これで推しの出ないugmtトークショーだったらウケるよねwww」
そう笑いながら、物販に何時間も並び、謎のシリアルコードつきのチケットを複数買ったのだった。
そして、あのとき笑っていた冗談が、現実になる時がきた。
そのイベントから時が経つこと1年。そのチケットの詳細がようやく発表された。
キャストたちのライブイベント、その優先申込が可能になるという。
しかし、そのライブイベントの出演者の中に、蒼井翔太の名前はなかった。
わかってはいた。
何に使えるかもわからないシリアルコードなんだと。推しに使えるかどうかもわからないのだと。それをわかった上で買ってはいた。
ただ、推しを人質に、推しのファンから金を巻き上げ、見返りを与えないその行為に、私は心の底から失望したのだ。
未だにゴーコンは続いていて、新たなキャストも発表された。
しかし、ストーリーもなく、あるのはエレガの曲だけ。
中身も未来もないコンテンツが、ただキャストの歌のみで走り続けているのを見かける度に、あの時の失望が今でも蘇る。
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推しがいるなら、惜しみなく金を使ってきた。
その金の価値に疑問を感じはじめた。
推しの事務所は、もう引退されてしまったシンガーソングライター、佐藤ひろ美さんが社長をされている。
推しが前名義をやめ、新たな道を進むためにひろ美さんに突撃し、それを受け入れてくださってここまで育て上げてくれたのだ。
2011年の東日本大震災で、大きな被害を受けた場所。ご自身のお父様も、その大震災でいまだに行方不明とのことだ。
その大槌町で、三陸の復興イベントが行われることが決まり、推しをはじめ、事務所のメンバーがそのイベントに参加することになった。
基本的には無料だが、クラウドファンディングという制度がとられ、イベントを優先的に楽しみたければ寄付をすることでリターンがもらえることになった。
その時の1番高額なリターンは、推しとのバスツアーだった。
岩手のメインの町から、会場まで2時間のバス旅。
そのバスに、途中から推しと、事務所の後輩2人が乗ってくるという。
寄付額は一口5万円。優先席とか焼き立てのホタテとかひっつみ汁とかもついてはきた。あくまでイベント開催のクラウドファンディングのための5万円であって、バスツアーにつけられた金額ではない。わかってはいたけど、バスツアーのために5万円を支払ったことに変わりはなかった。
そのバスツアーの定員は、30名くらいだったように思う。
花巻市から乗り込んだ蒼井の女たち。
座席はすでに決められていた。
いつ推しは乗ってくるんだろう?
わからないまま、時が過ぎて、時が過ぎて、、時が過ぎて、、、
気が付けば1時間が経っていた。
前述の通り、バスの乗車時間は2時間。
しかしその2時間のうちの1時間が無為に過ぎ、バスは「道の駅遠野」についた。
マップで見てもわかるように、花巻から大槌町までの道のりの約半分が過ぎていた。
その道の駅での休憩の後に、推したちが乗り込んできた。
挨拶もそこそこに、1番前の席に座る彼ら。
だが、推しの姿がちゃんと見られた人達は何人いただろう?
推しと反対側の列の通路側に座れた6,7人ほどではないだろうか。
他の人たちは、ただ、推しと推しの後輩たちのトークを、車窓の風景を眺めながら聞いているしかなかった。
若手俳優のオタクをしていた時に、バスツアーに参加したことがある。
丸一日のバスツアー。1万円くらいだったかな。
推しのトークを車内で楽しみ、バーベキューをして、レクリエーションして、写真を撮って、最後に手渡しでメッセージつきの写真を直接もらってばいばいして、帰りのバスでは推しがいない代わりに推しのトークが車中で放送された。
あのバスツアーの記憶が頭をよぎりはじめ、推したちが乗り込んで55分が過ぎ、バスが会場に到着した。
5万円のバスツアーがここで終わったのだ。
せめて最後、何か、推しに話せたり、なんて、お見送り、できたり、なんて、しな、い、かな、、、、
そんな期待は見事打ち砕かれ、推しの後輩からお土産のキャンドルを貰い、少し離れたところにいる推しには遠くから手を振るくらいしかできなかった。
リリイベの高速お見送りのほうがまだ、推しの近くにいけたし、「ありがとう」の一言くらいは声がかけられるだけマシだな、と思った。
5万。5万あれば何ができたかな。岩手の往復の旅費(交通手段的に前泊も後泊も必要)を考えると10万は飛んでいったな。
そう考えながら会場に入る。
自由席だったイベントの優先席は、バスツアー到着よりも前に会場に来ることができた、他の安い寄付金の人たちで埋められていて、バスツアー組が座れたのは、優先席の中でも後方か、サイドしかなかった。
ホタテはとても美味しかった。
◆
推しが客寄せパンダとして使われる。
推しが集金のための道具として使われる。
推しは好きだけど、その売られ方に疲れ始めてきた。
それでも推しが、私の好きな姿で、私の好きな歌声を響かせて、ステージに立ち続けてくれるのなら、一回でも多くその姿を見たい。
そうは思いつつも、だんだん、理想と離れていく推しに、心がついていかなくなっていった。
◆
蒼井翔太の代表作はなんだろう。
蒼井の女ではない人たちでも、しょーたんといえばこれだよね!といえる作品ってなんだろう。
うたプリの美風藍は外せない。
他には?
キンプリの如月ルヰ?
他には?
他には?
えーーっと…
……ポプテピ……???
彼が「声優」としてメディアに取り上げてもらう度に、疑問を持つようになった。
声優として、彼は活躍しているのだろうか。
小さいソシャゲにはたくさん出ている。もうたくさんありすぎて追いきれないし、気が付けば消えていったソシャゲもたくさんある。
でも、アニメは?
キングのおかげでタイアップさせてもらえてる「この音とまれ!」には出ている。
でも、他に彼がオーディションで勝ち取って役をゲットしたアニメって、何があるのだろう。
これはあくまで私の感じ方なのだが、蒼井翔太は「自然な喋り方」ができないように思う。
どんな役をしても、浮いてしまう。
だからこそ、キンプリのルヰくんのようなミステリアスな役はとても似合うし、基本「会話」をしないソシャゲのボイスなら問題はない。
しかし、日常の会話劇のような作品では1人だけ台詞が目立って違和感がでてしまう。
Wikipediaで推しの出演作の欄を見る。
2019年。
……もう、何も言うまい。
◆
推しは、ハマったらとことんのめりこむ性格だ。
モノマネにハマっていたときは、似てもいないモノマネをずっとやりつづけ、テレビに出演した時でさえ披露し、そのクオリティの微妙さで空気を凍らせた。
(余談だが、推しのたらちゃんのモノマネといくらちゃんのモノマネとクロちゃんのモノマネは本当に上手い。それだけやってくれたらいいのにな、と思っている)
今、彼がハマっているのは、タロットカードだ。
気が付けばハマっていて、コレクターのようにいろいろなタロットカードを集めだした。
ゲストで呼ばれた番組でも披露。
彼が月1で放送している有料放送では、1時間に満たない放送時間のうちの半分をタロットに費やしたこともあった。
1回や2回ならまだいい。ハマってるんだな、好きなんだな、楽しそうだな、と微笑ましく見られるだろう。
でも、いつもなのだ。
あぁ、また似てないモノマネやってる、
あぁ、またタロットやってる、
「あぁ、まただ」
一旦負に傾いた感情は、好きと疲れの均衡を保っていたシーソーを、じわじわと地へ近づけていった。
◆
推しに疲れ始めた頃、具体的には去年の春、件の岩手のイベントが終わったあたりで、私は逃避先が欲しくなった。
2.5に疲れて2次元に逃げてきた5年前のように。
推しを人質に金を巻き上げられることに疲れた私は、推しの出ない別の作品にハマった。
その作品は、音楽とドラマトラックからなるCDがメインのコンテンツで、月額制音楽配信アプリに登録さえしていればそのどちらも聴けた。youtubeではPVが無料で見られた。
まわりにその作品にハマっている女が多かったから、私をこの沼にはめてくれ〜!と呟いたら、あの手この手でプレゼンしてくれた。
そうして自らハマった沼はとても深く、そしてその出演している声優にも同じようにハマった。
ここ数年、蒼井翔太が出ない番組はほとんど見ず、イベントにはほとんどいったことがなかった私が、その作品に出ているキャストが出る声優バラエティ番組を見るようになり、イベントにもいくようになった。
そこで気がついた。
めっちゃ、おもしろい。
めっちゃ、たのしい。
普通(?)の声優ってこんなにも演技が上手いんだ!と感動したし、トークの引き出しにも感動した。
話題を振られても同じようなどこかで聞いたことのある話しかしないうちの推しとは違う、と感じてしまった。
会話の意図とは違う「?」な回答をしてこちらをひやひやさせることもない。
頑張って空気を読もうとしている姿にハラハラさせられることもない。
こんなにも、声優さんのイベントって、楽しいんだ!
◆
推しにスキャンダルがでた。
スキャンダル、というほどではないかもしれない。
推しのヘアメイクを担当している方が、推しとの関係を匂わせた、というような内容だ。
詳しくはツイッターとかで検索すればでてくるので割愛する。
正直、アクセサリーなんて、ヘアメイクさんや衣装さんから借りるなんてよくあるだろう。
匂わせ、、これで匂わせ?というのか!?といった内容でもある。
この内容をさらに匂わせるように煽っている発言を彼がしている、という見方をしているファンもいるが、考えすぎなのか、どうなのか、わたしにはその冷静な判断をする気力がない。
世のカノバレに比べたら全然マシ。
蒼井の女たちは、もし蒼井にzikのようなカノバレが起きたらどうなってしまうんだろうと思わずにはいられない。
それでも、今まで女の影を見せなかった蒼井翔太、中性的な大天使を売りにしていた蒼井翔太のファンにとっては、大なり小なりダメージを与える話だった。
事務所も、推しも、徹底スルーを貫いた。
個人の問い合わせに対しては、当たり障りのない返答をしたようだが、公式ではだんまりを決め込んだ。
それを批判するファンも多いが、私としては、これは正解だと思っている。
疑惑にはだんまりが1番。
昔テニミュの女をしていたころ、好きな俳優2人が女性アイドル2人と4人で遊んで週刊誌に撮られるというスキャンダルを起こしたことがあった。1人は事実を認め謝罪したが、他の3人は明言しなかった。明言しなかった俳優の方は、今をときめく若手俳優の1人に無事成長した。
明言して公に謝れば、その事件を知らなかった人も、「え?なんのはなし??」と検索してその疑惑を知るだろう。梶くんの話だって、私は全く知らなかったけど、梶くんが「お騒がせしてます」と呟いたことで、私は騒動を知った。
蒼井の匂わせの話も、蒼井の女でない人はほとんど知らないだろうし、蒼井の女ですら知らない人も中にはいるだろう。
繋がりの明確な証拠が出ていない以上、公に弁明することは正解ではない。
それでも、失望は隠せない。ああ、推しも男なんだよな。当たり前の事実に今更気づき、偶像であった尊い推しの存在を揺るがす。
一度落とした影は、じわじわと広がっていく。
◆
その騒動と時を同じくして、推しのブロードウェイミュージカルへの出演が決まった。
ウェストサイドストーリー。
現代版ロミジュリ。
私はもともと宝塚好きな親の影響で子供の頃からミュージカルをよく見ていたので、この作品ももちろん見たことがあった。
最初、推しの女たちは、喜んでいる人も多かったように思う。
有名なミュージカルに、しょーたんが出るんだ!すごい!
というような反応の方が多かった。
だが、私は、WSSに推しが出る。しかも主役のトニー。聞いた瞬間、不安になった。
「推しが、女の人と繰り広げるラブシーンに、蒼井の女は、そして私は、耐えられるの???」
今まで推しはいくつか舞台に立ってきた。
しかし、愛をテーマにしたような作品であれば、基本、推しが女性側で、男性の俳優と繰り広げていた。
中性的、女性的な推しの姿を、推しのファンは求めていたし、ファンが望んだ姿を推しも見せてくれていた。
だが、今回のウェストサイドストーリー。
女優の方と抱き合い、キスをする。
その作品に足かけ3ヶ月、稽古も含めたらそれ以上拘束される。
しょーたんはみんなの王子様で、大天使。
麗しくて、中性的で、女子力が高い。
今までそうやって売ってきた推しに与えられた役としては、方向性が違いすぎた。
彼が望んで受けたオーディションならまだ応援しようと思える。だが、そうとも思えなかった。
ただ、ブロードウェイミュージカルで主演をする、その箔が欲しいがために取った仕事にしか見えなかった。
公式ででたビジュアルも、推しの女が好きな推しの顔からはかけ離れていた。
今まで、小さくない顔を、メイクや髪型、衣装で可愛く見せていた。
しかし、WSSのトニーのビジュアルは、髪型も衣装も表情も、バランスが良いとは言いがたいものだった。
そして、やがて、推しの女も気がつき始めた。
「しょーたんのキスシーンがある」
もとより、値段のこともあって、回数重ねるオタクは多くない。(悪名高いステアラで全席指定15000円。某ステのステラボール18000円と良い勝負である)
それでも、取ってしまった数少ないチケットを後悔するくらいには、まだ見ぬ推しのラブシーンへの拒否感、望んでない姿を推しが見せることへの恐怖が、じわじわと推しのファンの間で広がっている。
私は、2回だけ、観に行く。
もともとテニミュの女をしていたので、共演者は知っている人ばかりだから、私が知っていた頃から10年も経った彼らの姿を久し振りに見たいという気持ちもあり、他の蒼井の女よりはまだ観に行く意味を見出している。
私は推しのリアコではないけれど、ひらひらの衣装を着てステージ上で舞い踊る蒼井翔太が好きだから、彼のトニーが受け入れられるかはわからない。
でも、観てみないとわからないから、その2回は大切に、この目に刻もうと思っている。
推しにとっては新たな挑戦。
新たな姿を見せてくれる推しのことを、ファンとしては応援すべきなのだろう。
わかってはいるけど、本音では、拒否感が上回ってしまう。
今まで築き上げてきたものをぶっこわす気合いで臨んでいる舞台。
そのぶっこわされる築き上げてきたものが、ファンとの絆でないことを祈っている。
◆
私の心は推しから離れていってるけれど、それは私だけかもしれない。
きっと推しは私1人いなくてもこれからも人気声優アーティストとして駆け抜けていってくれるはず。
そう思っていたけれど、そうではない可能性が、数字に表れてしまった。
先日、推しの11枚目のシングルが発売された。
アニメタイアップの新曲。推しが若手俳優たちと出演した謎の4話完結ドラマの主題歌も収録されているシングル。
その売り上げ。
ウィークリーの順位こそ、普段と遜色ないように見えるが、その売り上げ枚数。
初動で今まで1万を超えていた売り上げは大きく下回り、発売から1ヶ月経った今も、1万を超えていない。
今までリリイベなどで積んでいたオタクが、積まなくなってしまった。
この11月初めの連休、彼は朗読劇に出演した。
キャパ1000にも満たない会場のチケットは、最後まで捌けることはなかった。
◆
前述の朗読劇に、私はいかなかった。
予定は空いていた。当日券ももちろんあっただろうし、チケット譲渡もたくさんでていた。
しかし、いかなかった。
初日を観に行った友人から聞いてしまった。
「受け取りようによっては、ファンを否定するような内容で、辛かった」
推しとファンのあり方を悩んでいた今の私にとっては、推しがファンについて言葉を発したその舞台を観にいくべきだったのかもしれない。
でも、今の私には、推しの口から辛い言葉は聞きたくなかった。
◆
先月の台風が日本を襲った週末。
賛否両論の中開催されたキンプリのイベントに推しが立った。(余談だが、その数日前、ファンが週末の台風についてやきもき心配している中、推しは無邪気にも「週末楽しみ!」というような内容を呟き、こいつは世の状況をわかっていないのか、、、!?と我が推しながら憤りを感じる出来事もあった)
蒼井翔太がウェディングドレスを模した純白の衣装を見にまとい、如月ルヰとしてステージに立ち、シンくんとステキな結婚式を挙げた。(作品中で、ルヰくんはシンくんに一途な愛をひたむきに捧げているキャラクターで、彼の幸せをファンは心より祈っている)
2月に発表されているキンプリのライブに推しは出ないので、ソロ曲は歌わせてもらえるかな、と想像はしていたのだけど、まさかアプリ内のソロ曲である結婚式ソングを、しかもシンくんとのデュエットver(アニメ円盤全巻購入店舗限定版)で歌ってくれるなんて思ってもいなくて。
私はただただ泣いた。
あまりにもその光景が美しすぎて。
ルヰくんとしてシンくんと幸せな結婚式を挙げられたことの嬉しさ。
そして、蒼井翔太が、キャラを宿してステージに立っているその姿が、私が好きな蒼井翔太の姿そのものだった嬉しさ。
開催が危ぶまれ、批判も多い中行われたけれど、その姿をこの目で見られたこと。
いろんな思いが涙として溢れてきてしまった。
あぁ、やっぱり、蒼井翔太が好きだ。
◆
推しのことを好きな気持ちと、変わりいく推しについていけないという気持ち。
その間で揺れている。
自分の気持ちを整理するためにこの長文を書き始めたけど、結局何も整理できていない。
結局私は、私の好きな姿をみせてくれる推しが好きなのだ。
そして、私の好きな姿を見せてくれない推しに失望しているのだ。
ファンでもなんでもない、これはエゴでしかない。
ただ、2.5から離れたあの時のように、好きでいることを義務と感じてしまったら、辛くなる一方。
推しも今、悩んでいるのだと思う。
推しは悩んだり、メンタルが弱くなると、すぐ顔にでる。ツイッターがおはよーbotになる。
ずっと推しを推しとして応援してきた以上、その名を乗せて羽ばたいた彼が降りてくる所は、できれば見たくない。
自分はファンを降りそうなのに、自分勝手だな、なんて、思うけど。
彼にとって今は、このまま飛び続けることができるかどうか、大事な時。
許されることなら、心の底から彼を応援して、推し続けたい。
…あぁ、11月3日。
去年の今日は、神戸にいたっけ。
あの時は、幸せだったなぁ…